あひるの子はみにくい
あひるの子はみにくい 14話
「満足、した?」
マヒルの運転する車の助手席に座ったプルリィが、笑顔で話しかけてきた。
「そうね、まあまあかな」
どうやら、プルリィの姿は私以外の誰にも見えないらしい。
病院で目を覚ました後、母親にも、医者にも看護師にも見えていなかった。
しかし、私にはハッキリと見える。
プルリィは、私についてきてくれたのだ。
確かにここに存在している。
******
怪我のため数か月の入院を余儀なくされ、高校は留年することとなった。
私は、意地でも元の高校に通いたかったが、母親に強く反対され、転校することとなった。
しかし、どこへ行ってもウワサが広がるのは早いもので、私が前の高校でいじめを受けて自殺未遂を図ったことは、周囲の誰もが知ることとなった。
驚いたのは、周囲が私に同情的であったことだ。
いじめられていた時は、見て見ぬふりをするだけだったのに。
それが美しくなった自分の容姿のおかげであることに気づくのに、あまり時間はかからなかった。
また、どこへ行ってもウワサ好きの女子はいるもので、自分をいじめていた相沢ユウコが、富士野ヒロコと名前を変え、地方都市で大学生活を楽しく送っていることを教えてくれた。
彼女の友達の友達が、ユウコの従妹らしい。
無理に頼みこんで、ユウコの従妹とやらに会わせてもらった。
ユウコが、「自分は被害者なんだ、自分こそがいじめられていたのだ」、と吹聴していたことを知った。
ユウコは、クラスで浮かないための手段として、私をいじめ続けた。
彼女が私を見るときの、憐れみと嘲笑が混ざり合った視線を、私は一生忘れない。
自分こそがいじめられていたのだ?
だったら、本当にいじめられたらいい。
許せない、と思った。
******
ユウコが通う大学へ入り込むのは、たいして難しくなかった。
大学では学生証の提示を求められることは少なく、求められた場合も「忘れました」、で通用する。
大学生たちは周りの人々にさほど関心がない。
○○学科○年の○○です。
そう言っていれば疑う者はいなかった。
私は、母親の旧姓と名前を借り、鳥取アサコと名乗った。
高校時代にはできなかった友達が、大学ではたくさんできた。
女の子同士で恋愛や芸能人の話をするのがこんなに楽しいことだと、初めて知った。
あまりに女の子としかつるまないので、レズビアンじゃねえの、なんてウワサがあるのは知っていたが、気にしない。
聞こえないフリをするのは大得意だし、なにより高校時代に言われた悪口とは質が違う。
男も女も、私の気を引きたいのが、手に取るように分かった。
ユウコは、相変わらずパッとしない感じだったが、彼氏もでき、楽しくやっているようだ。
私の容姿は大きく変化したが声は変わっていないので、話した時にバレるかと思っていたが、一切疑わなかった。
その事が一層、私を苛立たせた。
彼氏を取られ、横領の罪も着てもらった。
ユウコは残りの大学生活、周囲から白い目で見られ続けるだろう。
『自分こそがいじめられていたのだ』
自分の言っていた通りになってよかったじゃない。
******
「プルリィ、色々ありがとう」
助手席のプルリィにお礼を言った。
「どういたしましてー。」
プルリィがニコニコして答える。
向こうの世界で覚えた魔法の呪文は、病院で目を覚ましてからは使えなかった。
タクとホテルに行った時。
「ラリホーマ!」
タクを眠らせてくれたのはプルリィだ。
そして、あの時も。
ユウコの部屋で彼女と食事をしていた時。
彼女を眠らせてくれた。
「ねぇ、次はどうするの?」
プルリィが尋ねてきた。
ユウコが眠っている間に、こっそりと拝借した財布と卒業アルバムのことを思い出す。
さてどうしようか。
運転しながら、思案をめぐらせた。

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