FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←人魚の王子様 6話 →人魚の王子様 8話
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 赤い鬼と青い鳥
もくじ  3kaku_s_L.png 眠りの森の天使
もくじ  3kaku_s_L.png 人魚の王子様
【人魚の王子様 6話】へ  【人魚の王子様 8話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

人魚の王子様

人魚の王子様 7話

 ←人魚の王子様 6話 →人魚の王子様 8話

翌朝、昨夜のことはウソだったかのように、いつも通り明るい彼がいた。

「ねえ、今日、会社何時に終わる?俺、エリコと行きたいところがある」
「今日は、7時くらいには帰れるはずだよ」
「そっか。じゃあ、待ってる。」

会社に行って仕事を始めたが、まったくもって気持ちが入らない。
シュウの赤い目が頭から離れないのだ。

 そんな中、マヒルが後ろから話しかけてきた。
 「どうしたんですか。今日は調子悪そうですね。ひょっとして、彼となんかあったとか。」
 彼女は本当に色々と気がつく。
 今日は彼女と話す気分じゃない。
 「ううん、ちょっと体調が悪いみたい。ごめんなさい、心配掛けて」
 「そうですか、お大事に。」
 机の上のカレンダーを見た。
 今、急ぎで仕上げなければならない仕事はない。

 「課長、今日は少し体調がすぐれないので、午後から半休頂いてもいいですか」
 そういうと、二つ返事で了承してくれた。
 もともと私でなければならない仕事なんて、この会社にはない。

 午前中に必要な書類をすべてまとめ上げると、皆が昼食を取っている中、自宅へ向かう電車に乗った。

 部屋に帰ると、掃除をしていたシュウがとても驚いていた。
 「どうしたの、まだ昼過ぎだよ」
 「行きたいところあるんでしょ、行こうよ」
 「会社は?」
 「さぼった」
 私は笑った。高校も、大学も、授業をさぼったことは何度ある。さぼる、なんて何年振りだろう。

 「ほら、行こう」
 そういって、シュウの手を引いた。
 「で、どこに行きたいの?」
 彼は、水族館、と答えた。
 「こないだテレビを見てたら、水族館の特集をしてて。行ってみたいと思ったんだ。」
 「水族館かあ。何年振りだろう。」
 仕事が終わってからでは、行ってもすぐに閉館時間だろう。
 さぼってよかった。

 シュウとふたり、近くの小さな水族館に入った。
 もともと有名な水族館ではなく、さらに平日の昼間ということもあり、客の姿は少ない。
 「あれ、テレビで見た水族館はもっと大きい水槽がいっぱいあったのに」
 「しょうがないよ、そういう大きな水族館は遠くに行かないとないの」
 なんだー、とシュウは心底残念がっていた。

 目の前の水槽では、熱帯魚が何匹か泳いでいる。
 「あれみて、熱帯魚。キレイだよね。」
 「おお、本当だ。俺の故郷の魚は、あんなに鮮やかな色してないよ」
 シュウが、興奮している。来てよかった、と思った。
 「シュウの故郷って、魚いっぱいいるの?」
 「いるよ。海はここと違ってすごくキレイだから、潜らなくても魚の姿いっぱい見えるし」
 「そうなんだ。私も、行ってみたいな」

 「でも、こうやって水族館歩いてると、エリコと一緒に泳いでる気分になるね」
 彼は、勇気を出した私の言葉をサラリと流す。

 「そうね」

 「エリコと泳ぎたいけど、エリコ泳ぐの下手だからな」
 痛いところを突く。
 「あのね、言っとくけど私結構泳ぐの上手だよ」
 「うそばっかり、溺れてたくせに」
 「違うの、あれはたまたま強い流れがあっただけで。県大会に行ったこともあるんだから」
 「はいはい」
 彼は、いつも通り飄々としている。
 「じゃあ、今度一緒にプール行こうよ。もう海って季節じゃないからさ。私の泳ぎ、見せてあげるから」

 「そうだね、いつか、行こうか。」
 彼が答えるまでに一瞬の間があったと思うのは気のせいだろうか。

 「あ、ペンギンもいるよ」
 そう言って彼は私の手をとった。
 私は、彼の手を離したくないと思った。

 水族館を順路に沿って進むと、深海魚コーナーがあった。
 そこは他のところよりも少し薄暗くて、ブラックライトに照らされた少しグロテスクな魚が泳いでいた。
 私たちは手を繋いだままだ。

 「海の底って、神秘的だよね。あの魚とか、何千年もまえから同じ姿なんだって。」
 私は、水槽の前の説明文を読みながら言った。
 「この深海魚たちって、ここが水槽の中だってことに気がついてるのかな」
 シュウを見上げると、思いのほか真剣な目で魚を見ている彼がいた。
 「どういうこと?」

 「この魚たちは、本当はもっと海の深いところにいて、人目にさらされることなんてほとんどなかっただろ。こんなところに閉じ込められて、いろんな人に見られて、『ここは自分のいる場所じゃない!』て思わないのかな。それとも、ここは深海だって思いこんでるのかな」
 彼は、深海魚をじっと見つめている。
 「どうだろう。私は、深海魚の気持ちは分からないけど、でも深海魚がここにいてくれて嬉しい。世の中にはこんな世界があるんだ、って分かったから。もし深海魚が深海に帰るなら、私も連れてって欲しい」

 真剣な顔の彼と目があった。
 「大げさだよ。」
 彼が笑いながら言う。
 「そうだね」
 私は、笑えなかった。

 ふいに、彼の顔が近づいてきた。
 私の唇と彼の唇が、重なる。

 「やめてよ、こんなところで」
 私は、小さな声で反論する。
 「大丈夫、だれもいない」

 私たちは、もう一度キスをした。


 家に帰り、彼が作ってくれたご飯を食べた。外食でいいという私に「もう晩御飯の仕込みはしてあるから」と彼が言ったからだ。
 一人暮らしを始めてから、めっきり魚料理は食べなくなったが、彼と暮らし始めてから魚料理の出番が増えた。自分でもある程度さばけるようになった。

 「私ね、高校時代に付き合ってた人がいたの。」
 ご飯を食べながら、彼の顔は見ずに言った。
 「でもね、その人、崖から落ちて死んじゃったんだ。私の目の前で。それから、一人付き合ったけど、なんか怖くて。この人も、いつか突然、私の前から消えちゃうんじゃないかと思って。長続き、しなかった。そこから、人を好きになるのに、臆病になってたんだ、私。だからね、久しぶりなんだよ。」

 彼が、何かを言う気配があった。
 「何も言わなくていいよ。ごちそうさま。お風呂入ってくる。」

 その夜、いつも通り、別々に寝た。

 朝起きると、彼の姿はどこにもなかった。

 テーブルの上には置手紙。




banner.gif
面白いと思ったら押してくださいね


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 赤い鬼と青い鳥
もくじ  3kaku_s_L.png 眠りの森の天使
もくじ  3kaku_s_L.png 人魚の王子様
【人魚の王子様 6話】へ  【人魚の王子様 8話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【人魚の王子様 6話】へ
  • 【人魚の王子様 8話】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。