FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←眠りの森の天使 4話 →眠りの森の天使 6話
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 赤い鬼と青い鳥
もくじ  3kaku_s_L.png 眠りの森の天使
もくじ  3kaku_s_L.png 人魚の王子様
【眠りの森の天使 4話】へ  【眠りの森の天使 6話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

眠りの森の天使

眠りの森の天使 5話

 ←眠りの森の天使 4話 →眠りの森の天使 6話
 
 第4章 41歳の冬、息子が死んだ 前篇


 「なあ母さん、勝手に俺の部屋に入らないくれって言っただろ」
 息子のユウスケが、口を尖らせて言う。
 「そんなこと言ったって、掃除だってしないといけないし、布団だって干さないといけないでしょう」
 ユウスケは、17歳になった。
 「そういうの、自分でやるからさ」

 最近、こういうやり取りが増えた。テレビでは、「自立が始まっている証拠だから放っておいた方がいい」、なんて評論家が喋っていたが、やはり自分から旅立っていくのを見るのは寂しいものだ。

 「でも、布団を干すのは昼よ。学校帰ってきてからじゃほとんど日なんか当たらないじゃない」
 ユウスケは、ますます意固地になっている。
 「いいよ、学校行く前に干すから。」
 「取り込むのは?塾の日は帰ってくるの10時すぎてるでしょ。それまで放っておいたら冷たくなっちゃうわよ。それに、もし途中で雨が降ったらどうするの?」
 彼は、返す言葉がなくなったか、そのまま階段を駆け上がって自分の部屋に入った。

 「あーあ、お兄ちゃん、最近すごいイライラしてるね」
 サキが、夕飯を食べながら、言った。
 「センター試験は来週だしねえ。しょうがないわよ。ほらサキ、ご飯食べながらケータイ触らないの。行儀悪い」
 サキはわざとらしくため息をついたが、それでも携帯電話は脇に置いた。
 「サキはどうするの?受験来年でしょ」
 「ああ今度、三者面談があるらしいから、そこで」
 「その前に話しなさいよ、先生の前で恥かくじゃない」
 サキはまた、大きなため息をついた。
 「うーん。じゃあ考えまとまったら話すわ。ごちそうさま」
 そういうと、彼女も階段を昇って、自分の部屋に入って行った。

 子供たちは二人とも、グレることもなく育ってくれているが、年々、自分との距離を感じる。主婦の友達に話しても、どこもみんな同じような感じらしい。しょうがないわよ、そんなもんよ。彼女たちは口をそろえて言うが、まだまだ子供たちを手元に置いておきたい。そんな気持ちがくすぶっていた。

   ******

 翌週、ユウスケのセンター試験前日。
 ゲンをかついで、夕飯はトンカツにした。
 夫も珍しく早めに帰宅し、家族4人での夕食は久しぶりだった。

 「まあ、頑張れよ」
 夫が言う。
 「まあね」
 ユウスケは、少し照れながら答えた。
 「まあね、って返事はおかしいんじゃないの?」
 私は、からかうように言った。
 「そうよねえ。まあ、頑張れよ」
 サキも笑いながら、父のまねをして言う。

 「まあ、一応合格圏内にいるから、大丈夫だと思う。頑張るよ。」
 模試の成績だと、ユウスケは学校でも優秀な方だ。
 テレビでは、お天気キャスターが能天気に「受験生のみなさん、頑張って!」とガッツポーズをしていた。
 
 「明日、雪降るかもって。やっぱり、念のため試験会場まで車で送ってあげようか?」
 「いいよ、バスで行くし。念のため、ちょっと早めにでるから大丈夫でしょ」
 試験会場は、ここから森を超えてすぐのところにある私立大学だった。
 直線にすると大した距離はないのだが、幹線道路は森をぐるっと迂回するため、バスだと30~40分かかる。
 「でも、雪降ったらバスとか遅れるかもよ」
 できれば、送って行ってあげたいと思った。
 「大丈夫だって。遅れそうになったら、三丁目のバス停で降りて森の中突っ切っちゃえば、そこから5分あれば着くんだし。」

 ユウスケがそう反論すると、サキも口を挟んだ。
 「そうよ、お兄ちゃんバスケ部であの森の中ジョギングしたりしてたし、庭みたいなもんよね。お母さん、ちょっと心配しすぎじゃない?お兄ちゃんのことになるといっつもそうなんだから」

 特にユウスケとサキを区別して育ててきたことはないと思う。が、サキにとってみれば、お兄ちゃんばっかり、という思いがあったのだろうか。
 「別に、サキの時だって送って行ってあげるわよ」
 「うん、私の時はお願いね。うちからバス停まで、雪が降ったら歩くの大変だもん。寒くて風邪ひいちゃう」
 サキの顔を見てみたが、兄と比較されたコンプレックスのようなものは感じられない。
 この子の考えていることが分からなくなったのは、いつからだろう。
 サキも親のもとから旅立とうとしている、そう感じた。 

 「ま、俺は平気だよ。最後にもうちょっと勉強するわ。詰め込めるだけ詰めこんどかないと。」
 そういって、ユウスケは自室へと戻って行った。「夜食、もっていこうか?」と言ってみたが、「いらない」と無下に却下された。
 窓の外では、冷たい空気が張り詰めていた。

   ******

 翌朝は、朝五時に起きて弁当を作り始めた。
 トンカツを新しく揚げ、あとはユウスケの好物ばかり。
 もし希望通り県外の大学へ進むことができれば、彼の弁当を作る機会はあと数えるくらいしかない。

 「おお、早いな」
 目を覚ました夫が、新聞を読み始めた。
 「ねえ、外、まだ雪降ってる?」
 私が起きた時は、ハラハラと雪が舞っていた。
 「降ってる降ってる。積もってきたな」
 慌てて夫の横に立ち、窓の外を見ると、さっきより勢いを増して雪が降ってきていた。

 「やっぱり、送って行った方がいいかしら」
 「やめとけって、ユウスケがいいって言ってたんだから。受験生みんなバスで行くんだから、バスが遅れたりしたらなんか補償してくれんだろう」
 夫にたしなめられ、「そうかな」と返事をしておいた。

 「おはよう」
 弁当をあらかた詰め終わったくらいで、目を覚ましたユウスケが下りてきた。

 「あ、おはよう。早く顔洗って朝ご飯食べちゃいなさい。早めに出るんでしょ」
 ユウスケと夫は時計を見て、顔を見合わせて笑った。
 「まだ余裕だよ。ほんと母さんは心配性だなあ」
 ユウスケは、そういって洗面所に向かっていった。

 サキが少し寝坊して起きてきて、「なんで起こしてくれなかったの」と非難の声をあげる。
 「目覚まし、うるさいくらい鳴ってたぞ」
 ユウスケが言うと、サキが頬を膨らませる。


 いつも通りの朝だった。


 「いってきます」
 準備をすませたユウスケが、靴ひもを結んでいる。
 「ね、無事に試験会場ついたら連絡してよ」

 私はたしかに心配性だと思う。でも、息子の心配をしない母親なんていない。
 「わかったよ」
 そう言って息子は出かけて行った。

 試験が始まる時間になっても、電話はならなかった。





banner.gif
面白いと思ったら押してくださいね



関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 赤い鬼と青い鳥
もくじ  3kaku_s_L.png 眠りの森の天使
もくじ  3kaku_s_L.png 人魚の王子様
【眠りの森の天使 4話】へ  【眠りの森の天使 6話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【眠りの森の天使 4話】へ
  • 【眠りの森の天使 6話】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。