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眠りの森の天使

眠りの森の天使 2話

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第2章 17歳の秋、級友が死んだ 

 高校3年生の9月、夏休みは受験勉強にあけくれ、学校が始まっても相変わらずすることは受験勉強だった秋。
 そこまで集中して勉強していたわけではなかったが、机に向かっていないとライバルたちにおいていかれるのではないかという不安が募り、模範的受験生としての生活を送っていた。

 「ねぇねぇ、今度の土日、キャンプしない?」
 「キャンプ?」
 「そう、すぐそこの眠りの森。コウジくんの親、あそこにコテージ持ってるから、この土日だけなら使っていいんだって」
 休み時間、高校から仲良くなった友達のエリコが話しかけてきたので、ペンを置いた。

 「予備校、あるんだけど」
 「いいじゃん、1日くらい。こないだの模試、A判定だったんでしょ?夏休み、ずっとがんばってたもんねー。この辺りで一回ガス抜きした方がいいって。」
 「うーん、どうしよ」
 「あのね、ジュンヤくんも来るんだって。」
エリコは私に顔を近づけ、声をひそめて言った。
 「え。」
 「チャンスチャンス」

 そういってエリコは私を小突いてきた。私は、高校一年生のころから、ジュンヤくんに片思いをしている。エリコは、コウジくんと付き合い始めたばかり。コウジくんとジュンヤくんは親友だ。
 「4人、てこと?」
 「うん。いいでしょ?」
 「ちょっと親に相談してみるね。」
 言ってみたが、私の心は決まっていた。ぜひ行きたい。
 「私の家に泊まり込みで勉強するってことにすればいいじゃん。その日私んち、お姉ちゃんしかいないし。うまく口裏合わせてもらうよう頼んどくから。」

 母親には、エリコに言われた通り話した。
 
 父親が死んでから、母親と祖父母と4人で暮らしてきた。やや心配症のところがある母親だが、模試の結果も良かったし、と言えばしぶしぶ了承してくれた。

   ******

 土曜日、4人で森の中を歩いた。
 4人とも子供のころからこの町に住んでいる。この森は庭のようなものだ。

 途中、木の根っこに足を取られて転びそうになったところを、ジュンヤくんが支えてくれた。
 「来てよかったでしょ」
 エリコにこっそり耳打ちされた。
 顔が熱かったが、残暑のせいにしておいた。

 コウジくんの親の所有らしいコテージは、想像していたよりずっと小さかったが、高校生が4人泊まるには十分だった。キッチンもあるし、布団も4つある。コウジくんの親が干してくれていたようだ。彼は外見こそチャラチャラしているが、親は地元の名士、らしい。
 夕飯は順当にカレーだった。カレーなんて市販のルーを使えば誰がつくっても同じ味なのだが、コウジくんもジュンヤくんも、「うまい」と言ってくれた。エリコと二人、涼しい顔をしながら内心すごく嬉しかった。

 夕食後、コウジくんとエリコは二人で散歩をしてくるとかでコテージを出て行った。ジュンヤくんと私、二人きりになった。心臓が打つスピードが倍くらいになり、なんとかごまかそうと夕飯の後片付けを始めた。
 「なぁ」
 気がつくとジュンヤくんがすぐ横にいて、後片付けを手伝ってくれている。
 「え、なに?」
 「北島ってさ、東京の大学受けるんだろ?」
 「うん、そうだけど。エリコから聞いたの?」
 私が洗った皿を、ジュンヤくんが拭いてくれる。
 「俺も。」
 「え、そうなの?」
 「おう」
 手と手が触れるだけで、こんなにドキドキするとは思わなかった。
 「でさ、もし俺もお前も東京で大学生やれたらさ、俺と」

 ジュンヤくんが急に言葉に詰まったので、できるだけ平静を装って、彼を見上げた。
 「なに?」
 「なんか、聞こえなかった?女の人の悲鳴みたいな」
 耳を澄ますが、何も聞こえない。本当に、肩すかしをくらった気分だった。
 「やだ、脅かさないでよ。何も聞こえない……」

 言いかけたところで、女の人の悲鳴が聞こえた。

 「ほら、な」
 「これって、エリコの声」

 私とジュンヤくんは、コテージを出て、声のした方へ向かった。

 エリコの悲鳴が、どんどん大きくなる。
 怖くて、ジュンヤくんの手を握った。彼も、私の手を握り返してきた。

 しばらく歩くとエリコの姿が見えた。
 道から少し外れたところに、座り込んでいる。

 「エリコ、何があったの?」
 「ヒカル……」
 彼女は、泣きながら私に抱きついてきた。
 私は、エリコを少しでも落ち着かせようと、頭をなで「大丈夫、大丈夫」と繰り返した。

 ジュンヤくんは、エリコがいたほうへおそるおそる向かった。
 彼が、エリコがいたあたりまでくると、そこはすこし地面がぬかるんでいたらしく、滑って尻もちをついた。

 その瞬間、彼は大きく目を見開いて、「コウジ!」と叫んだ。

 彼が今いる場所のすぐ先は崖になっていた。

 コウジくんは、崖の下の岩に横たわり、大量の血がその岩を染めていた。

   ******

 コウジくんはすぐに病院へと運ばれたが、すでに即死状態であったらしい。
 
 母には、頬をたたかれた。
 私たちは何もできず、ただ親と警察からの説教を聞いていた。

 私たちの親が、コウジくんの両親に向かって頭を下げていた。
 私たちもそれに倣って頭を下げた。

 コウジくんの両親は、私たちを責めることはせず、ただ泣き続けていた。
 親の世代の大人たちがおおっぴらに泣くのを見るのは、初めてだった。
 その姿を見ると、私が泣くのはおこがましいような気がして、泣くことができなかった。

   ******

 その夜、アルノーくんが夢にでてきた。
 「大変だったね」
 アルノーくんが言う。
 「どうして、ザオって言えなかったんだろう。私が、コウジくんを助けられたかもしれないのに」
 「どうして、なの?」
 「気が動転してて、魔法のこと、思い出せなかった」
 ひざを抱える私の頭を、アルノーくんは黙ってなでてくれる。
 「思い出したときには、5分よりずっと、過ぎてた。」
 「でも、それは違うかもしれない」
 私が言うと、アルノーくんは少し驚いた顔をした。
 「違うって?」

 「私、きっと魔法のこと思い出せてても、迷ったかもしれない。だって、一度しか使えないんだよ?コウジくんのほかにも、お母さんとか、恋人とか、これから先、私の前で死んじゃう人いるかもしれない。それなのに、たった一回をここで使って、後悔しない自信なんかないよ。もしかしたら、魔法のこと、本当は思い出してたのかもしれない。それでも、忘れたふりしてたんだよ、私。もっと大事な人に、って。コウジくんは友達で、エリコの彼氏で、じゅうぶん大切な人だったのに」

 夢の中で、私は泣いた。
 アルノーくんは、ただ隣にいてくれた。

 「顔を上げて」
 アルノーくんにそう言われて、私は顔を上げた。
 すると、アルノーくんは木の枝を拾い上げて、横に二、三回振った。すると木の枝がキラキラと光り始めた。アルノーくんはその光る枝で、私の頭をポン、と軽く叩いた。
 「なに、今の」
 アルノーくんは照れくさそうにえへへ、と笑った後、これから先ヒカルちゃんに悪いことが起きないおまじないだよ、と言った。
 「最近覚えたんだよ、だって」

 「ぼく、ヘルガ僧正の息子だもん」
 「ぼく、ヘルガ僧正の息子だもん」

 私とアルノーくんが同時に言った。
 私たちは顔を見合わせて小さく、笑った。

   ******

 その後、センター試験の出来が散々だった私は、受験校を家から通える国公立大学に変え、そこに進学することにした。
 エリコも、同じ大学へ進んだ。
 ジュンヤくんは、東京の大学に行った。

 彼とはあれ以来、かるい挨拶くらいしか交わさなかった。
 私の初恋は、終わった。

 そうして私は、29歳になった。





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